株式会社デジタル・フロンティア-Digital Frontier

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CG MAKING

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いぬやしき

2018年4月劇場公開作品【VFX制作】

INTRODUCTION

「いぬやしき」に用いられた「デジタルヒューマン」技術のメイキングを見ていく前に、「デジタルヒューマン」技術を確立していった背景についてあらかじめ触れておきたい。

デジタル・フロンティアでは、故人を現代に蘇らせるという目的のために、2014年頭より「デジタルヒューマン」プロジェクトが始動した。開発を始めるにあたって行ったのが、技術情報の収集・調査であったそうだ。しかし、当時ではまだフルボディでフォトリアルな3DCGの“人”の事例は少なかったため、必要な技術情報を調査していくのにも一苦労だったという。
そこでまずは、キャラクターの命ともいえる顔だけに着目して、実写と見紛うCGを作っていくことが最初の目標となった。CGプロダクションとしては、ただ技術を調べるだけでは意味がなかったため、勝新太郎氏を、CG技術で現代に蘇らせる「座頭市 0」プロジェクトと絡めて開発していくことになった。静止画レベルではなく動画レベルとして不気味の谷を越えることが大きな挑戦であったと開発陣は語る。
プロジェクト当初は、タスクブレイクダウンを行うことで必要な技術を細分化したという。そして、「座頭市 0」製作を念頭に入れた上で、優先度を決めて取捨選択をしていったそうだ。目標としては故人の復活ではあったが、「デジタルヒューマン」技術を一過性の技術ではなく汎用的な映像技術として落とし込むことが最終目標にあったからだ。
2014年初頭から始まった開発は、2015年10月に「座頭市 0」の勝新パートの製作終了により、一旦の技術の確立となった。しかし、「デジタルヒューマン」技術の開発はそこで終わりではなく、より最適化して映画レベルのもので行えるように改良が加えられていった。その成果の証として実ったが本作「いぬやしき」なのだ。

今回は、その改良された「デジタルヒューマン」技術について福田啓氏(R&D部長)、後藤浩之氏(R&D)、石山健作氏(フェイシャルSV)に聞いてみた。

(テキスト:最上 真杜)

本作におけるSceneLinear, Color Management

SceneLinearとは、現実世界に近い光の情報を表現している状態のことを指す。
「デジタルヒューマン」を行うにあたって、フォトリアルなものを演出するために色と光の情報を担保するというのは必須条件である。

福田

「SceneLinearで光、Color Managementで色の信頼性を向上させるフローを整え、正確なHDRIでIBLを行うことが必要だったんです。」

そう語る福田氏に、SceneLinear, Color Managementについて聞いてみた。

SceneLinearなHDRI作成

HDRI作成では撮影の段階から細心の注意が払われたという。例えば屋内撮影の場合、通常の白色蛍光灯では演色性(自然光が当たったときの色をどの程度再現しているかを示す指標)が低く赤み成分が弱くなってしまうため、演色性の高い蛍光灯を用意してから撮影するなど、現実世界を再現するためのポイントをしっかりと押さえて行われたそうだ。
福田氏が語ってくれたフローは以下だ。

撮影にはCanon 5D markⅡ+魚眼レンズを用い、4方向で露出を変えたブラケット8段階分を撮影。撮影したデータは、RAW現像ソフトdcrawを使ってraw現像を行い、その後、HDR合成ソフトHDRShopによって各方向で撮られたブラケットデータを結合し、パノラマスティッチソフトPTGuiでスティッチを行った。
Color Managementとしては、OpenColorIOにてカメラ色空間からsRGB-linear空間に変換した。以上でHDRIができるのだが、そこで終わりではなくデータの整合性の確認も行われたそうだ。HDR環境下でデータとして問題のないアセットにImage-BasedLighting(IBL)を行い、マクベスチャートを頼りに撮影されたものとレンダリングされたものとを比較することで正しく表現できているかを検証し、調整されていったという。SceneLinear実現のための正しいデータを得る苦労が窺える。

  • HDRIでのlookdev例

Capture System(LightStage)

次に福田氏はキャプチャについても語ってくれた。
3Dキャプチャは、「座頭市 0」にて使った実績を基に、本作でもLightStageが使用されたそうだ。LightStageについては、福田氏自身が本HPのDFTalkで執筆しているので参照してもらいたい。

「座頭市 0」の時との違いは、“実在の人物を撮ることができたこと”だという。
本人を撮るが故にデータとして正確なものを期待できたのだ。キャプチャでテクスチャーデータを多種得ることができたが、本作で最終的に使われたテクスチャーデータはdiffuse, specular, bumpだけだったそうだ。
テクスチャーデータは、LightStageを所有するNext Animation Studioの都合によりbmp形式で渡された。ColorManagementがしっかりと行われているか怪しい部分ではあったがそこは信じるしかなかったようだ。とはいえ、テクスチャーデータもそのまま使ったわけではなく、Mariを使用してペイントしたり、レゾリューションを2Kから4Kにしたりとレンダリング結果をよくするための工夫もなされていた。

福田

キャプチャ部分ではデータ的にSceneLinearやColorManagementが揺らいでしまう部分もありましたけど、キャプチャから実アセットとしてのフレームワークができたというのが大きいですね。

  • LightStageでの撮影風景
  • 使用されたdiffuseテクスチャー

© 2018映画「いぬやしき」製作委員会 © 奥浩哉/集英社