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CG MAKING

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いぬやしき

2018年4月劇場公開作品【VFX制作】

フェイシャルへのアプローチ

次に、人の表現の中でもアニメーションのリアリティに最も直結するフェイシャルについて石山氏に聞いてみた。

石山

皺の形状から血流まで、人の顔に存在する情報量を積み上げていくことで、違和感を最小限にすることを目指しました。人間は意識していないだけで、顔にある微細な情報まで取得し、それを基にリアルかどうかを判断していると思っています。

キャプチャによるフェイシャルターゲット作成

フェイシャルのキャプチャでは数多くのパターンを撮ることから、Picture Element Inc.のPhotogrammetryが使用された。顔は本作主演の木梨氏本人のものを撮影。単純な静止画だけではフェイシャルの変形過程がわからないのでリファレンスとして動画も撮影。写真から3Dのデータを作成するソフトContextCaptureで3D化。表情は48パターンを撮影したが、厳選して33パターンに収めたという。スキャンメッシュは440000poly程で、ベースメッシュの25000polyをwrap3というソフトを用いてスキャンした形状に整えていったそうだ。
歯というのは人間の印象決める大事な部分だといい、「座頭市 0」の際にフェイシャルで気になっていた部分だそうだ。そこで、本作では役者さんの歯型をとってマケットを作成し、それをPhotogrammetryで撮り3D化とするというこだわりを見せた。これが情報量の積み上げの一つだ。
以上を行い、汎用性を持たせるため部位ごとに使うデータを切り分けして、最終的には54のフェイシャルターゲットが作られた。

  • キャプチャ画像とスキャンメッシュ画像

ディテールの再現

既に出てきたように、肌のディテール再現にはVectorDisplacementが用いられた。VectorDisplacementマップの作成にはmudboxが用いられた。mudboxでは300万poly程になったものの200万poly程あればディテール情報としては十分だったそうだ。サブディビジョンのIterations数をmudboxに合わせ、VectorDisplacementを行うことで、スカルプト結果をそのままレンダリング結果に反映させることが可能になったという。

モデルにスキンシェーダーをはめて、確認レンダリングすることも欠かさなかった。フェイシャルはスキンシェーダーと密接に関わっているからこそ忘れてはならない工程なのだ。

石山

人間の顔の皺は意外にシャープに出るので凹凸がぬるくなりすぎないように注意して作業しました。「座頭市 0」の時のシェーダーでは皺の間の影がうまく出ずアンビエントオクルージョンを用いて皺の溝部分だけの影を抽出しシェーダーにaddしていたが、本作のシェーダーでは赤みや精細さが出るようになりました。シェーダーで助かっている部分が多くありますね。

  • シェイプターゲットとVectorDisplacement適用画像

「座頭市 0」ではTensionMapを使用して伸び縮みで血流による肌の赤みを表現していたが、本作では役者本人の撮影素材から作成したBloodFlowMapにより赤みを再現した。ただ、現状では赤み側しか出せない仕様で、白み側も出せるようにしたいという。静止画的な情報なので時間変化や流動的な変化が出来ないのが心残りだったそうだ。
以上のような情報量の積み重ねが「いぬやしき」のリアリティに結実したのだ。

  • BloodFlowMap

フェイシャルの課題と得たもの

表現としてはある一定の水準まで達することはできたが、作業フローとしてはまだ課題も残るようだ。その一つが、皺のショット毎の対応だ。
現状のワークフローでは形状をマップで表現していることから、あらかじめ用意したターゲットでしかカットに対応できないそうだ。そのため、カット特有の皺の入り方の指示に応えることは難しく、基本的にbaseMeshレベルでの形状修正しかできないという。本作ではCGカットが比較的少なかったため、皺などの微調整は無かったがフル3DCG案件などにはとても対応できないそうだ。
また、肌に付加するもの、本作で言えば頬に石粒を付着させるカットなどは、レンダリング時に形状を変えているVectorDisplacementでは対応が難しかったという。
今回使った方法としては、Arnoldのベイクジオメトリ機能でVectorDisplacementなどの形状変化をベイクしたものをBlendShapeでフレーム毎につなげてアニメーションし、そのメッシュに付着物を付着させて、付着物だけをalembicキャッシュとして出すようにしたそうだ。かなり特殊なフローとなるのでとても汎用的とは呼べないものだという。

本作では、BlendShape用のノードやMapBlendノードというのも開発してもらったそうだ。BlendShapeノードは既存のBlendShapeを拡張したもので、大量のシェイプターゲットを最小限の管理で扱うことができるもの。MapBlendノードはBlendShapeノードのテクスチャー版と言えるものだ。
こういった開発のおかげで従来の作業工数でカットのクオリティを高められるようになり、作業者全員の質を平均的に上げることに大きく貢献してくれたという。

  • workFlow とShader drive

石山

54種類のターゲットだけでは表現しきれない表情もあったので、ディレクターにそこを突っ込まれることもありました。最適の方法ではないので、まだまだ改善の余地はあると思っています。

日本のプロダクションが欧米と渡り合っていくためには、単純な物量で勝てない分工夫が必要になる。コストを下げるためにクオリティを犠牲にしない、クオリティを担保しつつコストを下げる。一見矛盾しているようにも見えることだが、技術の発展には欠かせない考え方だ。
これを実現するためには、R&Dやアーティストどちらかが主導して開発していくのではなく、お互いがお互いの長所を尊重して開発していくことが必要なのだ。
本作での「DIDGITAL HUMAN」技術の開発の裏側でそういった関係が築かれたことがこの結果の一助となったのであろう。是非ともこれらが一般化して日本のCG業界が発展していく未来を見ていきたい。

集合写真左から石山、後藤、福田

© 2018映画「いぬやしき」製作委員会 © 奥浩哉/集英社