CG MAKING
2015年7月劇場公開作品【CG制作】
細田作品の世界を支えるCG技術集団
【エフェクト ユニット】
CG視覚効果を担当。オープニングの炎のキャラクター、劇中の煙や爆発からクジラの飛沫、水滴の粒子など多岐にわたって担当した。インタビュー参加者は松井氏と伊藤氏。
【3D背景 ユニット】
3D的なカメラワークのあるカットで、3DCGモデルが必要なものを作成。また合成作業も行っている。インタビュー参加者は張替氏。
【コンポジット ユニット】
すべてのカットの合成作業を担当。コンポジットユニット内でも分業しており、ジェネラリストチームが主にコンポジットを手掛けている。またアニメ制作会社から撮影の出向協力も得ている。インタビューには川口氏、森田氏と本ユニットに応援参加したディレクター下澤氏、池田氏が出席した。
モブの配置からコンプまで
コンポジットは、アニメーションでいう撮影部分であるが、DFのCGの作業としては背景と2D、3Dの合成作業だけではなく、Maya上でのモブの配置やシミュレーション、車のアニメーションも行っている。モブの場合、たくさんの人数を配置するためレイヤー階層数が相当なものになる。例えば渋谷の交差点シーンでは、ビルの中でも人が動いているこだわりを見せている。また本作では、夜の渋谷のネオンの雰囲気やピンボケなどのレンズ効果も演出として多く使われており、コンポジットによって画面の印象が決定される重要な工程でもある。
2D背景から3Dへ
本作には路地シーンが多く、動くところ(カメラが入っていくところ)はすべて3D化している。美術から支給された一枚絵をカットし、各パーツのマッピング情報として貼り付けていくのである。もともとそれほど煩雑ではなかったのだが、DF側でPhotoShopを使って処理を行い、臨場感を足していった。このシーンはレタッチも慣れてきたところでの作業だったが、当初は美術スタッフが作ったものに手を加えていいかどうか迷ったという。
高架下の爆発シーン――エフェクトもトゥーン要素に
高架は一枚絵を2枚に切って、ガタガタと。鉄骨の揺れはエフェクトチームにやってもらいました。
コンポジット サブリード 川口 聡
最初は派手に壊れるという話だったのですが、作業をしていく中でちょっと地味でもよいことになりました。でもシリアスにしてしまうとアクションものとして深刻になり過ぎてしまうので、そう処理するか考えましたね。監督からは“祝祭感”というキーワードをもらいました。火花というか。そういう、監督の微妙な感覚を読み取って表現しないといけないんです。とがった光を入れてアニメ的にしたり、炎か煙かわからないようなものを入れてみたり、質感もトゥーン的な要素を入れたりしました。生素材はリアルなものも出してもらっていたのですが、フルCGだとディテールがどうしても出過ぎてしまうので、適正にバランスを合わせる工夫が必要です。爆発のシーンは煙だけの情報で合成しています。コンポジットする中で煙のみでよいと判断し、色はこちらで何とかするからトーンを分けるだけの素材を作ってくれとエフェクトチームに発注しました。高架下のものも炎素材をあえて使っていません。また街路樹も爆風でゆらさないといけないので、切り分けています。このシーンは結構レイヤー層があるものとなっています。
監督側からキーワードをもらうのですが、どうやってそれをうまく反映させればいいのか、というのを考えるのが非常に難しいんですよ。クジラのシーンも絵コンテに“幻想的に”と書かれているのですが…。もちろん打ち合わせでディスカッションはするのですが、監督が求めている“幻想的”って、どう表現すればいいんだろうと真剣に悩みました。
闘技場
空撮シーンでは、初めの1コマ目で背景美術を3Dモデルに張り付けています。渋谷の路地裏と作り方がだいたい同じですが、路地裏のようにカメラが入っていくようなものではないので、そのあたりの難易度は低いものの、モブが動くときに画像がチラチラする描画エラーが出たり、合成の作業が大変でした。カメラ位置は結構変わったりしましたね。美術設定の上條安里さんがSketchUp(簡易的な3DCGソフト)で制作した闘技場モデリングデータがあったので、こちらでは隙間をレタッチしたり細かい部分を足したりする程度で済みました。もともといただいたモデルは細かいパーツまで作られていたのですが、最終的に平面のポリゴンで大丈夫な部分は平面として処理し、空撮カメラが移動していって、パースの変化がある部分には(街路樹や応援旗など)ポリゴン板を配置しました。 3D背景 リード 張替 翼
闘技場内の背景はほぼCGです。2Dのレイアウトに合わないので、闘技場の形を変形しないとレイアウト通りにならず何パターンかの形状を用意してもらいました。それが結構骨が折れる作業だったようです。これは「サマーウォーズ」の時も同じだったんですが、OZの赤道ベルトを円形ではなく直線にして使ったりしていました。建物の形を変形させて使うということは通常のフルCGではあまりやらないことです。アニメーションの映画ならではかもしれません。ただ、そのほうが2Dの絵ともなじみますし、奥行き感も表現できるんです。変形をしていても不自然ではない。つまり、おかしくないから気が付かないという。
闘技場カットでは、基本的に背景は全部3DCGです。事前に美術パーツとしてもらった素材をテクスチャ化して制作しました。手前の近くだけ美術さんに描いてもらったものをそのままBook(レイヤー)として使用しています。カメラ位置などはレイアウトを元にDF側で決めて、全カットにカメラとモブを置いて合成します。
闘技場のカメラ配置図は、円形のフィールドでの戦いはカット数も多く、カメラ位置が分からなくなるので、チーム内で位置関係を共有するために作ったものです。これはモブをやっているスタッフにもキャラクター配置の確認のために見てもらいました。最初、この対決シーンは長丁場になる予定だったので、ライティング(太陽の移動)の設定も用意しました。東から陽が差してきて、だんだん移動して夕方になって終わるという感じです。影の位置の確認や、どちらが北かという配置をしなければいけません。CGをやっていると結構リアルを求めてしまいますね。このライティングは実際には使われませんでしたが、つじつまがあわないと気持ちが落ち着かないというか。カットによっては原図をこちらから出して、それに合わせて美術の人に描いてもらうというケースもありました。
監督の描いたイメージを読み取る――
チーム共同作業の中、ビジュアルで再現していく難しさ:
人間世界の裏にある渋天街におけるセンター街
カメラの動きを決めるのに長いこと四苦八苦していました。鳥居をカメラがくぐるシーンは印象的ですが、なかなか最初はイメージが付きにくかったんです。当初は鳥居下をカメラがくぐるのは流石に厳しいかな、という話もありました。“渋天街”の文字に近づいて行って、その文字の裏に行くというイメージなのですが、寄って行って裏側からカメラが引いていくような印象になったり、うまく裏表が繋がらなくなって逆再生しているように見えたり。とにかく気持ちよくしてくれ、という指示のもと、いろいろ試しました。カメラの動くスピードも、映画を見る観客が酔わないように微妙に調整をかけました。
炎となった真打の舞い:
劇場誰もがスクリーンに没入していく、タイトルが出てくるまでの最初のカット
冒頭のシーンは、かなり手付けを施しています。熊徹が奥に飛ぶアクションなどは、モーションキャプチャでは取れないデータなので、全部手付けで行っています。アクターさんのデータはあくまでもベースでしかないので、アニメーションをつける時間は相当かけていますね。動きはアニメーションチームです。そのあとでエフェクトチームが炎を入れ、コンポジットでさらに火の粉や細かな炎を入れ込んでいます。
尺が長いですよね。モブも沢山いたので、レンダリング処理にも相当時間が必要でした。しかも、この冒頭のシーンは昨年11月末の特報で使うということで、時間的にかなり厳しかったです。まず炎は3dsMaxのプラグインFumeFXで作っています。使い慣れたツールでしたので、経験値を生かせました。刀は3Dでモデルを用意してもらっていたので、そのモデルから炎を出しています。ただ、炎が燃え盛っているところで刀を振り下ろすと、刀だけ先に行ってしまって炎が取り残されてしまうという現象が起きました。動きが速いせいで炎のシミュレーションがついてこないんですね。そうすると、かなりショボイ絵になってしまうので、勢いの良い炎とのバランスを調整するのにテクニックが必要でした。 エフェクト リード 伊藤 源
火の粉は別要素で入れて、炎のリアル感(光の加減)はコンポジットで入れています。これらは全部池田さんのところでコンポジットしてもらっています。 エフェクト リード 松井孝洋
なんか、CG人生の中で一番複雑だったコンポジットだったような気がする(スタッフから笑い)。尺が長い上に要素が多いから、すごいレイヤー数で非常に複雑な合成です。そして、リズム感が難しい。シームレスに次から次へとシーンが流れていきますからね。この冒頭は1カットです。前段の説明がここで全部語られるので、尺としては2分くらいあると思います。この尺全部をやらなければならないところが厳しかったですね。エフェクトから全部、一連で繋がっていなければならないところが皆の工夫どころだったと思います。 コンポジット リード 池田正憲
最後の最後に来たリテイク
クライマックスの炎の剣の色を変更する、という演出の修正が急遽入りました。 単に炎ではなく、オーラのような印象にしたいという意向でした。当初はオレンジの炎色で最後までいく予定でしたが、ギリギリの段階で「炎じゃないかもね」と。とにかく皆に変更を説明し、カットをバーッと振り分けて作業に入りました。実は明日納品しなければならない状況の時に来たリテイクだったんですよね。本当に最後の最後に来たな、という感じでした。スタッフも気持ち的には終わったという時でした。
もはや素材は変えられないので、コンポジットでなんとかするしかないと。
いちばん泣かせる場面でもありますしね。
九太も当初はピンク色ではなくてオレンジ色だったんです。セル画はもう来ないので、堀部さんがセル色を決めて、色をコンポジットで変えていきました。
クジラのシーン
クジラ自体は幻想的で実体感がありません。堀部さんが調べてくれた、刺激を受けると体が発光するプランクトン・夜光虫を参考にルックを開発していきました。クジラ本体は、なんとなく幻想的にクラゲみたいな感じを意識しました。
監督とイメージを詰めながら進めていきました。波が立っているところで光る夜光虫の映像を見つけたので、その参考映像を元に、しぶきなどのエフェクトをお願いしました。
今回、クジラのメインの水しぶきは、Houdiniを使っています。結構長い尺とカット数があるので、今までとやり方を変えたほうがいいと思い、効率的にエフェクト作業を行えるようにしました。
テストの段階で割と参考映像に近づいていたので、あとはCGのリアルさを抑え、アニメ感に近づける必要がありました。どのくらいのディテールに落とし込むかというのを、コンポジットの下澤さんに監修をおねがいしました。
こういう素材ってそのままだと本当にディテールが出てしまうんですよね。フルCGに見えてしまわないように気をつけながら、水っぽく、でも水ではない有機物へと変えていきました。蛍のような粒子にしたいという注文もあったので、質感のある素材は使ってないんです。爆発シーンと同じように、ベロシティ情報とか、光がこちらから当たっているというような情報とか、割と素材としては単色なものをつまみだしてアニメ情報量に組み合ったところに落とし込んでいきました。その加減が難しいんですけどね。コンポジットの時に情報量を落として、2Dに見えることを狙っているわけではないので尚更です。単純に情報量だけ削ってしまうと、どうしてもチープになってしまいます。密度感は欲しいので、いろいろ試行錯誤して追及していきました。抽象物ですから、そういう迷いは付き物です。キャラクターにかかる水粒の動きにも、エフェクトチームに何度もリテイクを出しました。情緒というか、キャラクターの気持ちに合わせて動くように気を使っていますね。 コンポジット リード 下澤洋平
リアルなものではなく、別のベクトルで突き詰めていくので、監督が望むものにマッチさせるまでが難しいです。すぐに答えがあったわけではなくて、何度かやりとりをした後にやっと落とし込めたという感じですかね。監督としても、おぼろげなイメージがあるにせよ、最初から具体的なものがあるわけでもないので自分が良いと思うものを信じるしかありませんでした。誰も見たことがないものを作っているんですからね。
監督も最後まで悩んでいましたね。見てどうかというところですよね。言葉でこうだ、と伝えるのは難しいでしょう。それに、どこがどう違うのかということも説明できません。なので、トライアンドエラーを繰り返すしかありませんでした。このクジラ自身の色も青なのか、緑なのか、そして実体感のあるものなのか、最初は何も分からなかったんです。クジラの表面の揺らぎはキャラクターチームで、揺らしているのはコンポジットチームです。動きのメリハリもやってみて作り込んでいきました。水煙っぽい素材や、発光した粒子の素材、尾を引くようなもの、さらに色の幅を持たせるために緑系のしぶき素材を加えたり。たくさんの要素くらいから生まれたクジラです。DFチーム結集の賜物ですね。CGと作画の違和感がないクオリティに仕上げる、作画に合わせるという努力、その一言に尽きます。
ここからは制作全体を管理するプロダクションマネジメントユニットで、アシスタントプロダクションマネージャーを担当した岡本貴弥氏から話を聞く。
プロダクションマネージャー(PM)の役割とは?
制作進行をみる役目です。ざっくりまとめると、外渉とプロジェクト管理が大きな仕事です。制作側としては、外との関わりが一番大きいミッションかなと思っていて、監督との打ち合わせでも堀部さんたちと同席しています。
スタジオ地図へ出かける時、その日チェックに出すためのデータを作って、彼女に渡すと、そのコピーを取って持って行く用意をしてくれる、みたいな、周辺のことを全部やってくれる頼もしい役です。
例えば4時出発となると、4時ぎりぎりまで社内でチェックが続いたりするので、そこでオッケーが出たものを急いでコピーします。出発時間に間に合わず、堀部さんたちに先に出発してもらって、後から持って行くこともありました。データはネットワークで送りますが、先方でダウンロードして確認できるまで時間がかかる場合もありますので、保険的にメディアにチェックデータを収めたものを持参するようにしています。監督を待たせることだけは避けたいですからね。
監督はスタッフに対して感謝の言葉を忘れない人。ダメ出しはもちろんされますけど、良いときはめちゃくちゃ褒める方です。
それを帰社して現場のデザイナーたちに伝えると、すごく喜んでくれるんですよね。テンションが上がって、皆のモチベーションがますます上がります。PMの立場にいると、監督のダイレクトなメッセージが聞けて、スタッフに伝えることができる。それが制作だからこそ味わえる醍醐味かな、と思います。実際はゼイゼイ言って走って、やっと監督の言葉が聞ける、という感じですけどね(笑)。
監督からは情緒的な指示が多いです。監督の中では絵があるのだろうなと思いながら話を聞いていました。具体的な言葉がないところは、みんなの意欲をかきたてているのかな、とも思いますが、解釈をするのが難しくて。堀部さんがその言葉を持ち帰って、いつもすごく悩んでいます(笑)。
アシスタントプロダクション
マネージャー 岡本貴弥
クライマックスシーンでのリテイクが思い出
そこが一番の山だなと全員が思っていたところで、修正が入ってしまいました。結構CGが大きく関わるカットだったので、みんなハラハラしながら待っていたら、リテイクが…。「きたか」と騒然となりました。監督もスケジュールが分かっているし、ほぼOKが出るものと思っていたので、まさかという感じでした。
編集室を押さえているのがその日までだったので、もう何が何でも一発勝負で修正しなければならないという状況でした。帰社後、こんなふうに変えてみますというのを急いで作り、一本のQTにして送りました。 監督に確認をとったところ、「それでやってみましょう」ということになったので、それからは細かくチェックを刻んでいきました。次の日に提出して「ああ、いいね!」となった時はほっとしましたよ。クライマックスという一番重要なシーンですが、細田作品は最初から脚本通りの順番で作っていくので、当然クライマックスを最後に作ることになるんですね。だからどうしてもこうなってしまう。ただ今までの作品では、ここまでの切羽詰まった作業はありませんでした。
アニメ業界の人とのコミュニケーション
線撮(せんさつ)って何!?とか、社内スタッフにアニメ業界の言葉を通訳しなければならないこともありましたし、スタジオ地図側の話をかみ砕いて社内に伝えるということも大きな役割でした。
私は、細田監督の作品に関わりたいと言ってDFに入社したので、途中からとはいえ、ピークに差し掛かっていた時期にプロジェクトに入れてもらえたのは幸運でした。夢がかなったと同時に、現実を体験できたというのは非常に有難いと思っています。
コンポジット サブリード 森田恭朗 クジラの影と車、人ごみ、途中で通りすぎる電車。これらは美術からの背景絵上にCGを合成していったもの。合成作業を見越して、かなりの部分がデジタルBook(レイヤー分け)化されている。例えば、モブ配置の際に街灯や信号機、街路樹の前後関係を正確にするためにレイヤー化されていたり、横断歩道の白線の下にCGのクジラを配置していくことができる。
車と自転車の専門担当はCG背景ユニットの森田氏。渋谷の街のシーンは2006年から2015年、また1997年時も登場し、3つの街の表情を作っていかなければならない。交差点を走る車についても、車の年代リストを参考にし、その年代にあってもおかしくないモデルを選んで作っていったという。