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CG MAKING

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竜とそばかすの姫

2021年7月劇場公開作品【CG制作】

INTRODUCTION

2021年夏に公開された『竜とそばかすの姫』は、細田 守監督の映画『未来のミライ』(2018年)に次ぐ最新作だ。本作は現実世界では内向的な性格の主人公・鈴が、ネットに構築された仮想空間<U>では歌姫として注目を浴びつつ、<U>の空間のダークな存在である竜との関わりの中で、次第に現実世界と仮想世界がリンクし始め、現実世界での自信を取り戻していくという物語だ。作品は現実世界と<U>の仮想世界の2つの世界で進行していくが、現実世界は作画アニメーションで表現され、<U>の世界はフルCGで表現されている。デジタル・フロンティア(以下DF)では、この<U>の世界のCG制作を担当し、10年前に公開された映画『サマーウォーズ』に登場した仮想世界「Oz」を遙かに超えた仮想空間を創出した。CGキャラクター「ベル」のキャラクターデザインには、多くのディズニー作品のキャラクターデザインに携わるジン・キム氏、<U>の空間デザインにはロンドン在住の建築家エリック・ウォン氏が参加し、ワールド・クオリティのCGアニメーションが制作されている。今回は<U>の世界を構築したDFのCGディレクター堀部 亮氏、下澤洋平氏を中心に、各セクションのリードスタッフにインタビューさせていただき、600カット以上で構成された<U>の世界がどのように制作されたのか紹介していただいた。

(インタービュアー・テキスト:ビットプランクス 大河原浩一)

CGキャラクターの生き生きとした表情や演技で、作品の中に生きる「ベル」を創出する

フル3DCGアニメ制作に準じたスタッフ構成で挑む

まずは、本作の制作に当たってのスタッフ構成についてCGディレクターの堀部氏と下澤氏にお伺いし、同時にお二人の役割分担についてお伺いした。

堀部

本作では、フルCGアニメーション制作のセクション構成に則っているので、キャラクターアセットチーム、アニメーションチーム、背景チーム、リグチーム、ショットワークのコンポジットチームやエフェクトチームによって構成されています。今回は群衆シミュレーションも多かったので、シミュレーションチームもありました。また、ショット数も多いので外部の制作会社にも協力してもらっています。今回、僕と下澤さんの二人がCGディレクターとしてアサインされていますが、僕がキャラクターとアニメーション関連を担当し、下澤さんが背景やエフェクト、コンポジットなどのビジュアル関連を中心に担当しています。 CGディレクター 堀部 亮 CGディレクター 堀部 亮

下澤

物量が多かったので、ひとりでは全くスケジュールに収まらなかったですね。二人でも足りないぐらいでした。全てが並行して動いていましたから(笑)。 CGディレクター 下澤 洋平 CGディレクター 下澤 洋平

制作期間がちょうどコロナ禍の期間と被ってしまい、通常とは異なった制作体制になったと思うが、本作はどのようなワークフローで制作されたのだろうか。

下澤

制作のスタートが、ちょうど新型コロナウイルスの流行と重なってしまい、制作初期の頃に、キャラクターなどのデザイン打ち合わせでスタジオ地図へ伺ったぐらいで、その後の制作は基本的にリモートで行なっています。やってみて思ったのは、会社に来て作業するよりもトータル的なストレス緩和になったかもということです。人にもよると思いますが、私個人としては、普段会社で作業するよりもストレスは少なかったですね。

堀部

リモートワークでは画面が小さいので、エラーのチェックなどが難しいかと思ったのですが、思った以上に上手くいきました。アニメーションのチェックには、「RV」や「Sync Sketch」というソフトを使っています。スクリーンチェック以外では、細田監督とも「Sync Sketch」でやり取りしていました。リモート環境になったことで、チェックのためだけの移動が無くなり、スケジュールが差し迫っている状況では非常に助かりました。

CGキャラクターの芝居をどこまでクオリティアップできるか

本作の制作スケジュールは、2020年3月にアセット制作が始まり、トータルで1年半ぐらいをかけて制作が行われているという。2021年7月公開であったが、公開の2週間前まで修正作業が行われたと堀部氏。CGパートを制作するにあたって監督からどのような要望があったのだろうか。

下澤

監督からの要望で一番強かったのは、CGキャラクターの芝居を、どこまでクオリティアップできるかでした。本作では、そこが技術的なチャレンジとして大きかったと思います。

堀部

これまでの細田監督作品では、モブキャラクターや背景といった「環境」としてのCG制作が多かったのですが、本作のように、メインキャラクターをCGで芝居させるというのは、ほぼ初めてのことなので、かなりチャレンジポイントとなりました。監督ともディズニーのCGアニメのような、細かい感情のニュアンスが入ったようなお芝居や、目線の微妙な動きを入れたいよね、というような話を制作前からしており、制作中はディズニーアニメのキャラクターの動きなどを参考にしていましたね。

表情豊かなキャラクターデザインをCGキャラクターとして如何に制作するか

主人公「ベル」のキャラクターデザインは、非常にディズニーアニメ的なデザインになっているが、シェーディングされた見せ方ではなく、アニメ調のトゥーンシェーディングされたルックで表現するのは難しかったのではないだろうか。CGディレクターとしてどう感じたか堀部氏に伺った。

堀部

そうなんです。ジン・キム氏からベルのキャラクターデザインをいただいた時に、「すごい!」と思ったと同時に「この見た目のまま作ったら、ディズニーじゃん!」って思いましたね(笑)。その後、CG作画監督の山下高明氏が3DCGモデル用にデザインをリファインした設定画が上がってきて、スタジオ地図のキャラクターになったなという印象でした。そこからモデルの制作を開始しましたね。

  • Cap01:ジン・キム氏と山下高明氏によるベルのキャラクターデザイン

カオスな抽象性で構築された<U>の世界

<U>の空間は、仮想空間の描画として、これまでにないような広大な空間としてデザインされており、登場するキャラクターの量や背景、エフェクトのゴージャス感など、イメージを落とし込むまでに試行錯誤があったと聞く。CGディレクターのお二人が世界観を構築する上で目指したポイントはどのようなものだったのだろうか。

堀部

<U>の空間は、エリック・ウォン氏が作成したデザインがあるんですが、それはあくまでもコンセプト段階でのデザインなので、作中に登場する各時間帯での変化、ベルのコンサートやシーンごとの色づけなどには試行錯誤しましたね。そのあたりは下澤さんが監修してくれました。

  • Cap02:エリック氏デザイン背景画

下澤

<U>の空間が持つ空気感とかスケール感とか、インターネットの凄くゴチャッとした抽象性を積極的に盛り込みたいと思っていました。『サマーウォーズ』(2009年)で登場した「OZ」の空間では、お店の看板であったり、ブランドのロゴだったり、インターネットのサービスが具体的な行政サービスと繋がっていたり、実際の街中にあるものが具体性を持って表現されていました。あの作品から10年が経って、今のインターネットの空間をユーザー目線で考えると、何か雑然としていてよくわからないものだと感じていて、そういうカオスな感じを<U>の空間に反映させたいと思いましたね。ただ、単に雑然とした感じではなく、観る人によって解釈が分かれるような、何にでも見えるというような抽象性を空間に持たせるように意識しました。

  • Cap03:雑然とした抽象性を意識した<U>の空間

プリプロ段階での試み

非常にチャレンジングな表現が多い本作だが、プリプロ段階ではどのような開発やテストが行われたのだろうか。

下澤

背景に関しては、プリプロ的なことを色々やろうと思っていたのですが、結局は背景素材が上がってきてから、作り方やルックをどのようにするのかを、私の方で少しずつ探っていった感じです。最終的なルックが決まった段階で、背景チームに手順などを渡してバリエーションを展開してもらう様な作り方をしています。

堀部

キャラクター制作では、本作のキャラクターは歌を唄うということだったので、最終版のベルのモデルではなく、途中段階のベルのモデルを使って、洋楽の歌手が歌っている映像をロトスコープして、どんな風に見えるかをテストしています。ただ、このプリプロで何かを決め込めたかというとそこまでではなくて、キャラクターのモーションもカットを作りながら探っていくという感じでしたね。他のセクションに関しても、やはりプリプロで決め込むというよりはカットを制作しながら決めていった部分が多いと思います。

下澤

CGカットの全体のルックを決め込めたのは、2020年12月にトレーラー第一弾が公開された時ですね。その時にやっと全貌が見えたっていう感じです。

堀部

キャラクターも同じでしたね。本当にそれまではちょっとドキドキしていました(笑)

CGディレクターから見た本作の見どころ

非常に見どころの多い本作のCGパートだが、CGディレクターお二人からみた、本作の見どころはどのようなところだろうか。

堀部

今回、一番のチャレンジポイントだった「キャラクターのお芝居」は、ある程度しっかり出来たかなと思います。ベルの演技が良かったという反響もあるので、そこは良かったなと。CGキャラクターに芝居をさせると動きが硬くなりがちってあるじゃないですか。ディズニーとかピクサーみたいに生き生きとキャラクターが動いて、映画の中でちゃんと生きている感じを表現したいと思っていたので、ベルや竜が作品の世界で生き生きと躍動するところを観てもらえると嬉しいです。

  • Cap04:ベルの唄うシーン

下澤

<U>の空間の背景美術とか最終的な画の仕上げというところでいうと、キャラクターの芝居が引き立つような背景や画の仕上がりに凄く注力しましたね。例えば、広大な空間を演出することで、解放された感情を表現したり、竜というキャラクターのダークな部分や閉塞感が強調されるように、竜の城は非常にパーソナルな空間として演出したりしています。このようなキャラクターに対して味付けするような工夫が画作りの随所に施されているので、注目して観て頂ければと思います。

  • Cap05:竜の城