CG MAKING
2021年7月劇場公開作品【CG制作】
チャレンジだったベルのモーション付け
ここからは、主役のCGキャラクター「ベル」のアニメーションを中心に、モーションを構築するまでのワークフローを解説してもらった。ベルは日常芝居だけではなく歌をエモーショナルに唄い上げるというアクションもある。ベルのアニメーションはどのように構築されていったのだろうか。
手付けアニメーションで実現した、エモーショナルな動き
本編に登場するベルのアニメーションを見ると、息づかいまで感じるような非常に繊細な動きが付けられている。ベルのアニメーション付けのポイントを、アニメーションスーパーバイザーの藤松幸伸氏とアニメーションリードの山田洋介氏に伺った。
本作のCGショットは600ショット弱ぐらいです。アニメーターは総計で64人。じっくり作り込みが必要なショットは、監督OKが出るまでに1ヶ月以上かかるショットもありましたね。監督チェックの中で要望が多かったのが、キャラクターの表情がエモーショナルになっているかという部分と、ショットの内容やキャラクターに合った演技になっているかという部分ですね。どんなに良いモーションを作っても、キャラクターの感情に合わなければ全然違うと言われてしまうので、表情やモーションのひとつひとつをどれだけエモーショナルに表現できているかを重視しました。 アニメーションスーパーバイザー 藤松 幸伸
手の表情などは、自分でポーズとってみたり、それを撮影してリファレンスにしたりして、細かなニュアンスまで表現出来るように気をつけていました。あとは、やはりキャラクターが女性なので、女性的な動きの柔らかさは念頭において作業しています。柔らかい動きといっても、動きが流れてしまわないように、キチンと目に残るポーズを取りながら、動きの軌跡がきれいなアークになるように調整しながら作業しました。ベルのモデルは衣装のバリエーションが多くあるのですが、アニメーションの作業を行う時には、衣装を着けた状態で作業をしています。 アニメーションリード 山田 洋介
表情豊かなフェイシャルアニメーション
ベルは歌を唄ったりする以外にも、日常芝居的な演技においても非常に表情豊かなフェイシャルアニメーションが実現されている。フェイシャルアニメーションのポイントはどのようなところにあるのだろうか。フェイシャルリードの高尾翔英氏とリギング&シミュレーションリードの栁澤孝幸氏に伺った。
フェイシャルのセットアップとして目指したのは、CGっぽくない表情をどうしたらできるのかというところです。自然で柔らかい動きや、表情のバリエーションを多くして同じ表情ばかりにならないように工夫しています。CGだと同じ表情が作れてしまうのですが、カットによって感情も表情も違うので、そこをキチンと表現できるようなセットアップをベースのフェイスリグでは作っています。ベルのフェイスだけですが、カメラを左右上下と動かした時に、キチンとアニメ的なキャラクターの見え方になるように、メッシュが変形するような仕組みにしています。ベルのセットアップの作業は、最初の1ヶ月でベースを作成しましたが、キャラクターモデルの変更もあるので、それに合わせて半年ぐらいデータを触っていましたね。 フェイシャルリード 高尾 翔英
ボディのセットアップは、歌手が歌っている映像をリファレンスにして早い時期から開発を始めていました。今回は手付けでアニメーションを制作するということだったので、リグの使い安さがアニメーターの作業効率に大きな影響を与えてしまうと思い、作成したリグをアニメーターに使ってもらって、フィードバックをもらいながら修正を繰り返して作りこんでいくという感じでしたね。ベルのリグは衣装込みで作成していますが、衣装によってボディの比率が若干変わっていたりするので、そのような場合はリグを修正して対応しています。 リギング&シミュレーションリード 栁澤 孝幸
ゆれもののセットアップ
ベルは髪の毛も長く、衣装も動くと揺れるようなパーツが多数付いているデザインとなっている。作中では、これのパーツがベルの動きに合わせて非常に自然な動きで表現されている。このようなパーツのセットアップはどのように制作されたのだろうか。リギング&シミュレーションリードの小口 航氏に聞いた。
衣装のパーツとか揺れるものが多いので、最初は物理シミュレーションを使って動かせるようにしていたのですが、カットを作っていくなかでシミュレーションでは表現できないような動きもあり、デフォーマーベースでアニメーションさせたり、手付けでもアニメーションが組めるようにしたり、試行錯誤しながら進めていきました。髪の毛の動きも、衣装によって髪型が変わっていたりするので、ベースとなるリグを作成して、髪の長さや髪型の違い、体型の違いはスクリプトで対応できるようにしています。スクリプトを使うことで、慣れてない人でも容易に扱えるように組んでいます。 リギング&シミュレーションリード 小口 航
大量に登場するモブキャラクター
<U>の空間には大量のモブキャラクター<As>が登場する。これらのモブキャラクターの動きはどのように制作されたのだろうか。クラウドリードの飯田拓也氏に聞いた。
今回<U>の世界には大量の<As>が配置されていますが、それらを全て群衆シミュレーションや手付けでアニメーションさせるのは難しいので、半分ぐらいはエフェクトチームと分けて作業をしています。シーンの奥に配置されているモブキャラクターはエフェクトチームで作成し、中間の位置のモブはMayaのMiarmyという群衆シミュレーションツールを使って配置し、カメラに近い位置のモブキャラクターはアニメーションチームに手付けでがんばってもらいました。今回の群衆アニメーションに関しては、カットの数も多く<As>の形状がものすごくたくさんあるので、ひとつひとつアニメーションを付けているとスケジュール内で終わらないという課題がありました。そこで、ヒト型とかトリ型とか形状でグループをまとめて、モーションデータを作成することでコストを削減して、群衆の配置をする時も扱いやすいように工夫しました。一番苦労したのは、<As>を配置する際に、かなり密度がある状態で配置しなければいけなかったため、キャラクター同士がめり込まないようにすることです。上手く配置するために細かく何度も調整したのが、かなり苦労しました。モブの表情の変化はテクスチャーを変えることで対応しています。 クラウドリード 飯田 拓也
作画パートに登場した鈴を<U>の空間にも登場させる
作中、現実世界のパートの主人公・鈴が<U>の空間に現実世界でのそのままの姿で登場するシーンがある。CGキャラクターで構成された世界に作画のキャラクターを配置するというとてもチャレンジな試みだがどのように制作されたのだろうか。実は、この<U>の世界に登場する鈴は作画ではなく、CGキャラクターとして作成されたものが使用されている。作画と見間違えるようなCGキャラクターを作成した苦労を、堀部氏とアニメーションディレクターの川村 泰氏に聞いた。
鈴が<U>の世界にそのままの姿で現れて歌を唄うところがクライマックスにあるのですが、当初、鈴をCGで作成するか作画で描くかという判断があやふやな状態で進んでいました。最後のコンテが上がった時に、やっと<U>の空間だからCGで対応しようということが決まり、急遽川村さんに鈴パートをまるごとお願いすることになりました。鈴は作画パートにもメインで登場するキャラクターなので、ベルのように「CGキャラクターとして成立していれば良い」という考え方が通用しないので、非常に難しい部分でしたね。
そうですね。鈴をCGで作成するということが決まってアセットが出来上がったのが納品の3ヶ月前。2021年3月ぐらいだったので、そこから開発をしつつ、カットを作るというちょっと特殊な状況になりましたね。アニメーションチームと話ながら、鈴の髪が揺れるセットアップとか、シャツやスカートの感じなんかをアップデートしながら作っていきました。制服の白いシャツやプリーツのスカートなんかも、クロスシミュレーションで動かしてしまうと、作画の動きとは少し違う感じになってしまうので、納期が迫る中みんなで探っていったという状況でした。ベルのキャラクターがCG映えするデザインで計算されている中で、作画的に地味な部類に入るキャラクターをCGで登場させるというのは、細田監督もチャレンジングなことをするなと思いましたね。細田監督のハードルも高いし、納期に向けて結構ヒヤヒヤした感じで制作が進みました。その感覚が、アンベイルされる気持ちと似ているのではと思いながらやっていましたね(笑)。 アニメーションディレクター 川村 泰
堀部
本作では、主役のキャラクターをCGで作成し、しっかりとした演技を手付けのアニメーションで表現していくということが決まっていたので、そこを大きなチャレンジポイントとして制作をスタートしました。DFでは、手付けのアニメーション制作の案件もありますが、モーションキャプチャーを使ったキャラクターアニメーションの案件が多いので、手付けアニメーションのトレーニングを行ったり、アニメーション制作に入る前に、役者さんでリファレンスとなる演技を撮影したりして準備をしていました。ただ、結局はカットを作成して監督にチェックして頂いて、少しずつ試行錯誤をしながら、動かし方のポイントを探っていったという感じでしたね。ダンサーに踊ってもらってモーションキャプチャーも撮ってはいますが、ベル(&鈴)の声を担当している歌手の中村佳穂さんが歌っているエモーショナルな感じをCGのモーションにも盛り込みたいという監督の要望もあったので、キャプチャーデータは使わず、手付けでアニメーションさせることになりました。