CG MAKING
2016年4月劇場公開作品【VFX制作】
コンポジットチームの力を最大限に発揮したカットとは
トラッキングですべてを追いかけるのは無理です。結局、マーカーを手で撒くという作業が必要になりました。今回は物量が多かったので本当に大変でしたが、最初に上がってきたオフライン映像を見てテンションが上がりましたね。“これは、なかなか良いものになるぞ”という感覚がすぐに湧いてきましたし、CG側に対しても、今までにないハイレベルなものが要求されていると感じました。ただ時間的な限界があるので、どこまでこだわって粘れるか、日々戦いでしたが(笑)。
主役級ZQN“高跳び”のCG表現
A級ランクのZQNの中でも最高ランクのキャラクターが“高跳び”です。他のZQNに比べ、特にシーンによっていろいろな特殊メイクやVFXが必要になるキャラクターでした。シーンによって同じ1体のゾンビが形を変えていくのも他のゾンビ映画にはあまりない表現かも知れません。
破壊モデルに関しては、日本の特殊造型チームに詳細な造型を作ってもらい、3Dスキャンしています。特殊造形チームに造型を作ってもらうメリットとして、①CG加工するZQNの造型とCG加工しないZQNの造型のデザイン性を統一できる、②完成に近い造型をスキャンし、実物を見ながら作ることでCG制作の時間短縮に繋がり、詳細な作りこみに時間を費やすことができる、という2点がありました。高跳びの最期のシーンも含めて、破損ピースはキャラクターチームが作成し、細かいピースの破壊モデルはブーリアン演算ではなく、パーツパーツを手作業で破壊させています。なので、目玉や舌といったピースも、細かく散らばっていく動きをつけることができました。ここで作ったモデルをベースに、更にエフェクト側で二次破壊させています。バットで殴られて分割したものがもう一回、ここで壊れる。そこから血を発生させています。
キャラクターチームの作業としては、高跳びはどんどん血を足していってパターンを増やしています。死体の中で転ぶことが何度かあるので、そのたびに血がついていくのです。
血の量ですが、現実的な量感と演出的な派手さとを考えながら試行錯誤しました。あえて量を増やすカットもありましたね。
一回レンダリングしてみて、まだ少ないね、と言って足したり。美的感覚もありました。
眼の表現
ZQNの眼はすべてCGです。最初は充血した目の全眼コンタクトも検討したのですが、これだけ人数の多い役者さんにシーンごとにつけていたら高額になってしまうこともあって、エフェクト処理にしようという結論になりました。もちろん、コンタクトは安全面も心配ですし、役者さん本人が嫌がることもありますからね。従来のゾンビ映画では、光らせたり充血させたりとか、単に白目をむいているような表現が多いのですが、本作では監督と話して、強膜(白目)は充血させて、虹彩は白濁した色にしようということになりました。虹彩は、まだ人間意識があるうちは黒く、ZQNになるにしたがって白濁し瞳孔が点になっていく。それに充血を足していきました。眼は3DモデルをNukeに読み込み、テクスチャーを貼って作っています。
眼球に反射する風の破壊後の景として、現場で撮ったHDRI*(HDR)素材を映り込ませています。
*HDRI(High Dynamic Range Images)
眼で面白いところは、眼球の動きです。3Dのモデルを使っているので自由に動かせます。ちょっとした眼の芝居をうまく表現できるのです。例えば人間がZQN化する過程で眼が斜視になっていくのですが、その微妙な動きが欲しかったので、1カットは実際の眼の左右の動きを別撮りしました。別々に撮った素材を合成し、追いかけていくような処理をしています。眼を動かすと瞼の周りの筋肉も動きますよね、ぴくぴくと。その瞼の動きも欲しかったので、俳優さんに実際にやってもらって合成処理で取り入れています。
今回はHDRの素材に、現場で撮った素材と色をアジャストして馴染ませるという作業をかなり多く行いました。全部カラーチャートを取って、物理ベースでレンダリングしたCG素材もコンポジット上でカラーマッチングさせています。これは、このプロジェクトで定着した工程ですね。以前は目合わせで行うことも少なくありませんでした。眼球の作業もそうですが、Nukeを使ってモデルを読み込むというやり方も、このプロジェクトで学びました。
安藤
ZQN化して顔が変形するカットが目玉ですね。ZQN化すると血管が浮き出てくるのですが、CGで充血していく様子を足しています。難易度の高いトラッキングが入る作業でした。一枚の画像をマスクで切って増やしていっているのですが、影の中に影があるみたいな感じで、なじませるのが非常に難しかったです。顔の必要部分にマーカーは多少貼ってあったのですが、測定値としては厳しかったですね。皮膚の間で伸縮があるので、マーカー単位では合っていても、どうしてもズレが発生してしまう。Nukeのメッシュアップ、グリッドワープポイントに制約(コンストレイント)して、全部くっつけてエクスプレッションで制御しながら、実際にきちんと合うように細かい手づけをして作り上げました。
顔面の皮膚下の血管が浮き上がっていくのですが、トラッキングポイントのマーカーをもっと顔に貼っておけばよかったかもしれません。でも汗と一緒に動いて途中からマーカーが見えなくなってしまうこともあり、その判断値が難しいんですよね。やはり血管部分の編集が一番気を遣いました。マーカーは結局、後で消さなくてはいけません。多く貼っておけばトラッキングには助かるけれど、これ全部消すの?ってなったりして(笑)。だから探り探りやるしかないんです。