CG MAKING
2016年4月劇場公開作品【VFX制作】
ここからは話題をゾンビからロケーションに移そう。映画では、原作のアウトレットモール編がクライマックスの場となった。あちこちに散乱する廃車、荒れ果てた店舗、当てもなくさまようZQNらであふれたおぞましいモールの風景は原作でも印象的に描かれている。DFチームに課せられたのはその原作描写の再現であったが、富士の御殿場アウトレットモールという設定の舞台の撮影が実際に行われたのは韓国だった。
韓国の風景を日本に一変させる地道なコンポジット作業
電柱と電線は一か所だけだったのですが、背後のCG合成には非常に時間がかかりました。主人公・英雄が手押しするカートの網目越しの風景の処理を、フレームごとに手作業で行わなくてはならなかったからです。グリーンバックで撮影していないため、全フレームに手でマスク掛けをしました。
モールの大きな壁にグリーンバックを貼って撮るわけにいきませんでしたからね。コストが大幅に変わってしまいますし。あと、小さいグリーンバックを移動して撮るということも可能性はありましたが、モーションコントロールカメラを使っているわけでもないので、背景マッチングにさらにコストと時間が必要になるため、グリーンバックなしでの撮影になりました。
このカットだけではないのですが、全体的に手足や頭部が欠損している先に背景がかかっている場面が多かったので、その都度手作業でマスキングを行う必要がありました。
高速道路のシーンも韓国で撮影しています。風景が韓国なので、CGで日本の交通標識を足したりしました。ガードレールやセンターラインも、予算の都合上500mという限定された区間のみ設置されています。画面に、ない場所が映ってしまったカットはガードレールも白線もCGで合成しています。
ちょっとした“ズレ”との戦い
今回は部分CGの作業が多かったのですが、同モデルのトラッキングには高い精度を持たせる必要がありました。新しい技法ではありませんが、従来よりも気を配って作業しましたね。コマ送りでは判らなかったちょっとしたズレが、連続再生してみるとはっきりわかってしまうといったことが頻繁にありました。トラッキングの精度も原因の1つだと思いますが、撮影のフォーカスが比較的浅かったのでノイズが出てしまったのかもしれません。NGになったクリップをフレームごとに探っても、ずれ始める箇所が見当たらなかったりするのです。根本的な解決法もなく、何回も再生しながら、微調整、補正を繰り返すしかありませんでした。例えば歩道橋の上で、飛んでいく何機もの飛行機を見送るシーンでは、上空に基準となるものが何もないので、カメラの揺れがなかなか合わなくて。遠景の建物を見ると合っているように思えるのですが、実はそれよりも奥かもしれないといった感じです。
ズレの修正は終盤まで掛かりました。撮影カメラがリグを使わず手持ち撮影なので、どうしても微妙なブレが出てしまう。近景と遠景がどこまでマッチングしているのかを判断するのが難しかった理由のひとつです。
エフェクトの見せ所シーン
ほぼ血作りばかりだったんですけど、炎や煙といったエフェクト作成にも力を入れました。映画の前半で荒れていく街のマンションから出てくる煙は、素材をAfter Effects上で合成しています。煙を10パターンくらい作って、うまく馴染むようにコンポジット処理しました。高速から遠方のマンションを見ているシーンの煙が一番良い出来かなと自分では思っています。
エフェクトチームはデータまで用意して、あとはキャラクターチームが用意してくれたレンダリング用のシーンに入れて素材を出せばコンプしやすい素材になるというフローになっていました。これは非常に有難かったですね。エフェクトチームが出す素材とキャラクターチームが出す素材が、全く同じ環境でレンダリングされるので作業がスムーズでしたし、血の見え方や動きの試行錯誤に集中できました。
クオリティという意味では、最初の素材が抜群に良かったことが、その後の作業のレベルを引き上げました。土井さんが現場に立ち会って良い素材出しをしてくれたことが、とても重要だったのだと思います。
従来の“足し算”ではなく欠損や破裂といった“引き算”のVFX処理を施したZQNと、舞台となる背景の丁寧な作り込みが、本作を超A級のホラー映画に仕立て上げたと言える。もちろん、豪華キャストの卓越した演技も見逃せないが、記号的表現に留まっていた国産ゾンビを一気に進化させ、世界レベルにまで高めたのは本作の功績だ。世界がそのクオリティを認めた証拠として、本作は第48回シッチェス・カタロニア国際映画祭で観客賞と最優秀特殊効果賞、第36回ポルト国際映画祭で観客賞とオリエンタルエキスプレス特別賞、第34回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でグランプリと、世界三大ファンタスティック映画祭の完全制覇を達成。さらにアメリカ・テキサス州オースティンで行われたサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)2016でもミッドナイターズ部門観客賞を獲得している。これまで日本には皆無だった、映画でしか表現し得ない描写をふんだんに盛り込み、観客をリアルな恐怖に陥れる最高峰の日本発クリーチャー・ホラー映画の傑作がここに誕生した。
左から齋藤、長谷川、土井、安藤、宮尾
土井
舞台となるアウトレットモールは、韓国の閉鎖されたモールを使いました。当然壁のポスターや交通標識などは韓国のものなので、すべてCG処理をしなくてはいけませんでした。モールのエントランス上部は、CGのゲート、看板を合成しています。モール前に横転している車は日本から持ち運んだ実物ですね。